IbarakiI - Japan

© kousyou-hitachi

WORKS

お問い合わせ

牛久数寄屋住宅

ちょっと贅沢な牛久数寄屋住宅

ちょっと贅沢な牛久数寄屋住宅

ちょっと贅沢な牛久数寄屋住宅

ちょっと贅沢な牛久数寄屋住宅

長い廊下のある平屋
牛久数寄屋住宅

 なるだけ長く、広く、高く設計されたこの家の廊下は、単なる通路ではない。
長い廊下の先の突き当りに見える重厚な扉。
廊下にこぼれる各部屋の灯り。
壁に埋まっている錆鉄板のニッチ、高いアール天井、高窓、北側から入る優しい光、月あかり。
家族だけの空間であり、家の奥に隠されたシンボルでもある。

数寄屋建築や社寺建築などの伝統的な木造建築において、廊下や回廊、縁側、浜縁などの通路は、単なる動線としてではなく、その建築の一つの見せ場でもあった。意匠的にも凝った納まりが多く、職人にとっては腕の見せ所であり、腕の立つ職人にこそ、その仕事は任された。

しかし、昨今の一般住宅建築においては、床面積を極力減らすことや動線を短くすることを優先して設計されるケースが増え、長い廊下のある新築住宅はほとんど建たなくなった。
南西から北西へ向かって、約二八メートル伸びる細長い百坪の敷地。
本案件の敷地を見たとき、このような敷地であれば、ゆったりとした長い廊下が、昨今の一般住宅にも受け入れられるのではないか、と想像した。

「扇垂木」による軒先の出は1200ミリメートル

社寺建築や数寄屋建築など、伝統建築に多用されている「扇垂木」という技法。これを応用することで、軒先の厚みを薄く保ちながらも、通常の住宅の約2.5倍の軒の出を実現している。 母屋を外壁から出さず、軒先を薄く深くすることで生まれるすっきりとした外観は、通常ならば鉄骨造、もしくは鉄筋コンクリート造などで設計される。建築コストの低い木造住宅において、軒を深く薄くしながらも必要な強度を確保するには、通常の10倍もの手間がかかる。 そして、責任感のある賢い職人の手が必要となる。

小細工

千四百本の格子塀

目の細かい縦格子は「千本格子」と呼ばれる。「千本格子の塀」や「千本格子の建具」は、今まで幾度となく納めてきた。
しかし、実際に千本以上の縦格子を使用したのは、今回が初めてである。
単純な意匠であり簡単な工法ではあるが、厚みが薄く成(奥行)のある木格子約千四百本に、三本ずつ真鍮釘を打ち付けることは想像以上に根気のいる作業である。

この塀は軽やかで美しいが、どちらかといえば機能性を重視して設計されている。

一本一本の格子の見付け幅は細いため遠く離れた場所からは全体が透けてみえる。しかし、格子の成(奥行)が通常よりも深く間隔が細かいため、近くでは立ち止まった正面の狭い範囲しか見通すことができない。

これによって透け感が強くなり、高さがあるわりには圧迫感がない。一方で透ける範囲が限定的なため、外部からの視線はさほど気にならない。

アプローチは深目地の洗い出し仕上げ

アプローチや犬走り、駐車場はすべて川砂利コンクリートの洗い出し仕上げとし、統一することで存在感を消し、塀や植栽、庭石の邪魔にならないよう計画した。表面のひび割れを防止するための「目地溝」を通常より細く深くし、角を四五度に面取りをすることで、凛とした土間コンクリートとなる。

小さい子供が安全に遊べる現代の坪庭

坪庭とは、京都の古い町屋などでよくみられる小規模な庭のことである。 主に生け垣や竹垣、塀、外壁などで囲まれた空間であり、玄関の奥や、屋敷の奥などに中庭として作られている。 鑑賞目的だけでなく、採光や通風を目的として設計されていることも多い。

だが本案件の坪庭は、本来の坪庭とは異なり、リビングの正面、それも、南面道路側に面して設計されている。 子供が遊んでいる姿を、リビングから安心して眺めていられるよう意図して、作られた坪庭である。

作庭を依頼した庭師さんは、京都の名門造園会社で長く修行を積んだ経験をもつ。 本物の茶庭を数多く手掛けてきたからこその、ちょうど良い加減が随所に感じられ、緊張感を与えないあっさりとした空間に仕上がっている。

坪庭を囲う杢塀。

遠くから見たそれは大きく異様な存在感を放つ。しかし、近くで見ると、そのに軽やかさに涼しげな印象をうける。
土着的であり、かつモダンでもある。斬新なデザインに感じるが、古臭いようにも感じる。硬そうでもあり、柔らかそうでもある。

約一千枚の波板

波打った約千枚の樫の薄板を束にして立てただけのこの塀は、恐らく世界中を見ても、唯一無二の存在であると思う。 樫の木は硬く粘りがあり、折れにくい。それゆえに、鉋の台、鑿の柄、玄翁の柄、鍬や斧の柄などにも使われ、大工にとっては馴染みある木材といえるだろう。 今回は太い樫の木の原木丸太を6本仕入れ、製材、乾燥、加工、仕上げ、組み立てと、半年以上の長い期間をかけ、ゆっくりと制作した。 一度に進めずに、塩梅をみながらじっくりと考え、焦らずゆっくり材料を吟味することで、一味違った面白いものができあがった。

洞窟ような玄関

天井の高さをできる限り低く設計した玄関ポーチ

鍛冶屋さんが制作した十字型の鉄格子

鍛冶屋さんが制作した十字型の鉄格子

鍛冶屋さんが制作した十字型の鉄格子

 十字に組まれた鉄格子の繋ぎ方は鍛冶屋さんの提案である。何か面白い繋ぎ方はないだろうかと相談したところ、その場で色々と面白い提案をしてくれたうちの一つであり、引き出しは無限にある。 自ら物を作り出せる職人が生み出すアイデアは、常に理にかなっており、刺激的である。

魅力的な「粗」

天井をできる限り低く設計した洞窟のような玄関ポーチの、その壁いっぱいに納まっている黒い金属製の玄関扉を開ける。 すると、できる限り天井を高く設計した開放感のある玄関が現れる。

玄関には、樹齢約四百年の広くて厚い秋田杉の式台が設置されている。表面の凹凸は、手斧で「なぐり加工」を施した痕である。 削るのではなく、なぐる。 その魅力的な「粗」は、職人の手によってのみ生まれる。

小口にはひび割れの開き止めに「かすがい金物」が打ち付けられている。古いお寺を修理するための解体工事の際に回収した「かすがい金物」を再利用している。 昔の鍛冶屋さんが、一つ一つ火造りした金物の表面にも、魅力的な「粗」が在る。

なぐられた敷台は、白い壁、黒く焼かれた鉄、砂岩タイルとの相性も良い。

鉄で遊ぶ

鉄製の飾り棚は手摺と一体化したデザインにした。 鉄の焼き肌は、木にも石にも、土にも、何にでも合う。床の砂岩タイルと壁との見切り板にも、同じ鉄製の焼き板を使用している。 壁掛けフックは、高さが自由に変えられる。花瓶や帽子、コート、バックなどが自由に掛けられ、何もないときでも触って動かしてみたくなる「治具」のようなデザインとした。

フックの金物は古い鋳鉄で、おそらく明治時代に作られたものと思われる。古い門を移築した際、土の中から出てきた掘り出し物である。 これが一体何なのかは不明であるが、腐食具合が気に入り、どこかに飾り金物として使用したいと三年前からその機会をうかがっていたところ、今回めでたく日の目をみることとなった。

 まずは棚のデザインを決め、たたき台の木製実寸模型を作る。その後、実際の現場に取り付けて、高さ、幅、長さ、厚み、角度など、ディティールを再検討したのち、修正を加え木製実寸模型が完成する。 次に完成した実寸模型を鍛冶屋さんの工房に持ち込み、制作方法や強度、重量などの意見交換をする。棚の完成度を上げるためには鍛冶屋さんにとって造り易いかどうかが重要な要素となる。そして、空間の完成度を上げるためには現場の大工が施工しやすいかどうかが重要な要素となる。 このような工程を経て最終的な鉄製の飾り棚の形を決定した。質の良い職人同士が集えば、自然と丁寧な物づくりがはじまる。

溶け込んで消えた登り梁

リビングの勾配天井は、樹齢約250年を超える山武杉の目透かし貼りとした。 化粧板の厚みは20mmと、通常の天井板の2倍以上の厚みがあり、表面は浮造り仕上げとなっているため、底目が深く、木目も深い。

勾配天井の下から上までを継ぎ目無しの一本の木材で登っていく意匠とするため、長さ六メートルの杉の原木丸太を製材し、天井板を制作した。 天井板に継ぎ目が無いが故に、山武杉の木目の強さと深い底目の黒さが引き立ち、凛とした雰囲気の天井となっている。

天井板の材は材種だけでなく、産地、樹齢、色味、木目を揃え、天井面より下に突出した登り梁も、同じ仕様で覆い隠した。 これにより、二本の登り梁の存在感を消し、天井に溶け込ませることができた。 このような仕様を実現するには、原木の丸太を仕入れ、製材、乾燥、加工、仕上げ、そして設計、施工までを自社ですべて行う必要がある。

利休の待庵

国宝である「妙喜庵待庵」は利休がつくったとされている、現存する日本最古の茶室である。その最大の特徴は、窓の浮遊感と不安定さであるといわれている。その、崩れそうな、折れそうな、危うさと軽やかさを、このテレビ棚で表現してみた。

頑丈で暴れない素直な材を木取ることで、小口方向を正面に向けた、一風変わった貼り合わせで棚全体を構成しつつ、必要強度を確保することが可能になる。

材は、樹齢250年超えの山武杉の赤身の柾板である。樹齢200年を超える杉は年輪(冬目)が硬く、油分が多く、赤色に深みがある。

パッチワークの建具

テレビ棚とパッチワークの建具は、共に樹齢約250年の山武杉の赤身の柾目板を使用している。樹種、樹齢、産地、木目すべてを揃えることで、調和のとれた空間を作り出している。

厚みのある無垢板をパッチワークすることは、木材もしくは繋ぎ目が割れるリスクが極めて高い。

 木材は常に空気中の温度や湿度などの影響を受けて伸びたり縮んだり反ったりを繰り返す。そして、その動き方は各部材によって様々である。よって隣り合う木材同士の動きにずれが生じ、動ける許容範囲を超えたときに割れが生じる。これらの現象を考慮すると、寄木のように一つ一つの部材を極力小さくしたり、厚みを薄くして別のものに貼り付けたりと、各部材の動きに影響されづらい工法を選択する必要性がでてくる。一般的な木製建具や木製家具が、集成材や練り付け剤(薄い無垢板をベニヤ板に貼り付けた剤)を組み合わせて制作されているのには、価格を下げるためだけでなく、こうしたリスクを回避する意味合いもある。


今回は厚い無垢板を単純に繋ぎ合わせたパッチワーク建具であり、それを実現できた要因はひとえに「動きの少ない木材」の選定による。
木材は「赤身」と「白太」と呼ばれる部位に分けられ、白太より赤身の方が動きが少ない。
木目の模様は大きく分類すると「板目」と「柾目」の二種類があり、板目より柾目部分の方が動きが少ない。
木目には「夏目」と「冬目」があり、冬目が太くて間隔が細かい木材の方が、動きが少ない。

建具に仕様した木材の樹種は杉の中では冬目が太い山武杉である。 そして、木目の細かい樹齢約300年の大木から赤身の柾目部分を製材し、一定期間自然乾燥させた。
動きの少ない上質な木材を選び、乾燥から加工までをじっくり丁寧に行う。 そして一つ一つの部材の癖を読みながら組み合わせることで、無謀とも思われるパッチワークのデザインを実現させている。

板目のパッチワークの扉は更に難易度の高いデザインとなっており、狂いなく組み上げ、設置後の動きをも止めるためには細かなノウハウを必要とする。

 向こう側に人の気配が感じられるよう、透かしを交えてパッチワークしてある。リビングの灯りが廊下にもれる様子

明治時代に作られたものと思われるガラスがはめ込まれ、江戸時代の 鍛冶屋さんが作ったと思われる頭巻き釘で枠を止めている。 いずれも、古い建築物の修理工事の際に採取したものである。

鍛冶屋さんに制作していただいた鉄製の取手と灯窓枠。 取っ手は、パッチワークされた継ぎ手のラインに合わせてデザインされている。

リビングは天井の杉板や木製の建具、テレビ台の色合いに合わせてほんのり黄色がかった白い壁に。 廊下は木々の葉に反射する森の中の緑色した光をイメージしてほんのり緑がかった白い壁に。 玄関の壁は壁から突き出した鉄棚の質感に合わせてほんのり灰色がかった白い壁に。 三つの壁を同時に見たときに、微妙な色の違いにふと気づく。そんな楽しみを隠してみた。

リビングの一本引き戸を開けて廊下を一望する。 まず目に飛び込むのは、突き当り正面の木製扉である。    そして、高い天井から差し込む北側特有の優しい自然光。 その光を包み込み、下に広がる空間へといざなうアーチ状の白い天井。 天井は流れるように壁へと変わり、黒いブラックウォールナットの床へと吸い込まれる。

床:ブラックウォールナット

廊下の両側に点々と並ぶ扉とその枠は天井や壁と全く同じ仕上げとしてある。 故に、木製建具、欅の洗面台、錆鉄板のニッチ、自然光が細長い空間で調和している。

錆鉄板のニッチ

自然が創り出す美しさは木や石と同じように鉄にも宿る。雨、風、土が長い歳月をかけてのんびりと仕上げた表面は赤黒く、粗く、艶やかである。 何にも例えがたいその質感は、触ってみれば、 やはりただの錆びた鉄である。

木彫りの手洗い

樹齢約300年の欅の赤身の塊。 建築材としての使い道がなく材木置き場の隅っこに長らく追いやられていたその存在を決して忘れていた訳ではない。

大工は在庫するすべての木材に対し思い入れがある。 そして、いつの日か何処かのなにかに使ってあげようと常に考えているからこそ、 新しい活用法やデザインが自然と湧き出てくる。 そんな大工ならではの形が昔の建築には散りばめてあった。

急勾配で深い円錐形の穴は水捌けがよく乾きが早い。 故に、水漏れ、水腐れの心配は無い。 また、堅く、重い欅の塊を壁から放し、宙に浮いたように設置することで、 壁際の水捌けや、欅材の設置後の伸縮や割れによる動きに周りの壁が影響を受けない納まりとしてある。 欅の塊に穴を空けただけの洗面台 壁は水撥ねを考慮して鉛貼り仕上げとした。

欅の塊に穴を空けただけの洗面台 壁は水撥ねを考慮して鉛貼り仕上げとした。

洗面台に合わせて欅で制作した鏡は渦巻きのような木目に沿って若干掘り下げてある。 鏡を見た人はその渦の木目に気付き、そして惹かれ、気が付けばその木目を手で撫でてしまう。 長い年月がかけて、その部分は徐々に窪んでゆき、現在の形となった。 このような昔話ができたら少し面白いのではないかとふと思い、しかし欅は硬く、人が大勢使用することも無さそうなので、先に彫ってしまった。

 渦を下にも上にもできるような納まりとしてある。


牛久数寄屋住宅

ご質問などお気軽にお問い合わせください
心を込めて丁寧に仕事させて頂きます