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大工道具

大工は道具を見ればどの程度の仕事をしてきたのかが分かる

  昔から、「大工は道具を見ればその大工がどの程度の仕事をしてきたのかが分かる。」とよく言われますが、本当に良く分かります。腕の良い職人や向上心の高い職人ほど、道具を見ただけで多くの「情報」を得ることができます。
 近年では大工道具を造る鍛冶屋さんがどんどん減っていく一方、廃業された鍛冶屋さんの鉋や鑿が道具好きの職人さんや道具屋さんによって高値で取引されていますが、私がいう「情報」というのは道具に打ってある「銘」や「鋼」や「地金」の種類などのことを指しているのではありません。
 大工道具というのは、鍛冶屋さんが仕上げた状態では全く使い物になりません。その道具に職人が手を加え「使える道具」へと仕上げるのです。ですから、本当に「使える道具」になっているのか。どの程度の知識を持っているのか。職人としてどのレベルを目指しているのか。普段の仕事でどんな木材を扱っているのか。横着なのか。合理的なのか。色んなことが使っている道具に表れてしまうのです。
 常に上を目指し真面目に仕事をしてきた職人は、それをきちんと感じ取ることができます。現場では、そんな職人同士が日常的に道具を見せ合い、意見交換をすることで、少しずつ各々が考える理想の形へと道具を進化させていくのです。

鑿

墨壺

 鑿は大工にとって一番良く使う手道具です。その中でも特に良く使うのは叩き鑿と追入れ鑿です。しかし、本当に良い仕事をしようとするならば、仕事に応じて沢山の種類の鑿を使い分けなければなりません。突き鑿、穴屋鑿、山蟻鑿、薄鑿、平待鑿、向待鑿、木成鑿、内丸鑿、外丸鑿、バチ鑿、鏝鑿、その他にも、自分で造った鑿など、年に数回しか使わないような特殊鑿まで使えるようにしておかなければなりません。
 沢山の道具を持ち、そのすべてを常に良い状態に保ち使い続けるということは、とても多くの時間と根気を必要とします。しかし、その日々の積み重ねが必ず良い仕事に繋がるのです。

鋸

鋸

 鋸の刃には、縦目(木の繊維方向に対して平行に切る刃の形状)、横目(木の繊維方向に対して直角に切る刃の形状)いばら目(木の繊維方向に対して斜めに切る刃の形状)の3種類があります。鋸の大きさは通常、大きい方から尺二寸目、尺一寸目、尺目、九寸目、八寸目、七寸目とあります。
 近年は使い捨ての鋸しか使わない大工が多いですが、昔ながらの手打ち鋸は切れ味が落ちても「目立て」をすることで何回でも、何年でも使い続けることができます。また、鋸がひずみ、真っすぐに切ることが困難な状態になってしまっても、ひずみを抜くことで自然と真っすぐ切ることができる理想の状態に直すことができます。
 私が鋸の目立てを頼む時は、その鋸が頻繁に切る材料の種類や、用途、そして私がその鋸に求めている鋸を引いた時の感覚や切粉の出方など、いつも細かく目立て屋さんにお伝えします。 私はとても信頼のできる目立て屋さんに長年お願いしているので、ほぼ要求通りの切れ味で返ってきます。
 現場の大工は、早く綺麗な仕事をするために沢山の種類の鋸を使い分けています。

 鉋

鉋

 鉋には大小様々な大きさのものがあり、それぞれの大きさに合わせて、用途も変わっていきます。また、同じ大きさの鉋でも、鉋刃の研ぎ角度や鉋台の形状を微妙に変えてあり、仕事の内容や、削る材料、求められているクオリティーに応じて使い分けをしています。

特殊鉋

特殊鉋

 特殊鉋とは、それぞれ特定の状況下にのみ使用する鉋です。例えば、鴨居の溝の側面を仕上げる時には脇取り鉋を使用し、鴨居の底を仕上げる時には底取り鉋をしようします。
 近年では特殊鉋をきちんと使いこなせる職人が減ってしまい、鴨居の溝の中まで仕上げる工務店はほとんどありませんが、一度きちんと覚えてしまえば造作も無いことです。
 沢山の種類の特殊鉋を上手に使いこなす職人ほど仕事が早く、仕上がりもとても綺麗です。

墨壺

墨壺

 この墨壺は私が中村外二工務店に在籍していた頃に彫った墨壺です。中村外二工務店では自分で使う墨壺は自分で彫るのが当たり前であり、やる気のある弟子は1年目に彫ってしまいます。それだけのノウハウとやる気に満ちた若者が中村外二工務店には集まっているということです。
 全国各地で旅仕事をする工務店でしたので、出張先の旅館から夜の街に繰り出したい気持ちを抑え、部屋で酒を飲みながら、話をしながら、テレビを見ながら、暇つぶしのように少しずつ墨壺を彫る、そんな習慣が中村外二工務店にはありました。

おさ定規

おさ定規

 おさ定規は主に茶室などの数寄屋建築に用いられる、面皮柱や丸柱に鴨居や敷居などを取り付ける際に使われる道具で、まさに数寄屋大工を象徴する道具です。このおさ定規は中村外二工務店の一時代を圧倒的な実力で支えてきた清水俊雄さんが72歳で現役を引退される時に直々に頂いた道具です。おさ定規は清水さんがお作りになり、箱は現在の中村外二工務店の番頭で「現代の名工」にも選ばれた升田志郎さんが若い頃に清水さんに作ってあげたものだそうです。私の宝物です。

砥石

砥石

 砥石には天然砥石と人造砥石があります。また、大きく分類すると、荒砥石、中砥石、仕上げ砥石があります。
天然砥石においては、産地によって、あるいは層によって質が全く異なりますので、自分が思うような砥石に出会うことは大変稀です。また人造砥石においても、メーカーや品名、番手によって特徴は様々です。
大工は、砥ぐ刃物に合わせて、もしくは仕事の内容に合わせて、砥ぎ角度だけでなく砥石も変えることで、仕事の効率や精度を上げることが出来るのです。

 これは私が良く使う人造砥石です。厚さ15mm程ある砥石を1mm近くまで砥ぎ減らしますので、薄くなった砥石が割れてしまわぬよう、新しい砥石と張り合わせて使うようにしています。その結果、このような積層の人造砥石が出来上がるのです。早いときは、2、3年でこの状態になります。何事も積み重ねが大事です。

特殊鉋

特殊鉋

 我が社の砥ぎ場です。切れ味が落ちた刃物を豆に研ぎ、常に切れ味の良い状態を保つということはとても大変なことです。大工は基本的には昼休みなどの休憩時間や仕事が終わった後に切れ味が落ちた刃物を研ぎます。しかし、例えば仕事中に、鑿が切れなくなってしまった場合、その鑿をごまかしながら使い続けるよりも、一旦、砥ぎ場に引っ込み、研いで鑿を切れる状態に直してから再び仕事に取り掛かった方が、早くて綺麗な仕事ができるものです。

 砥ぎ場の環境を充実させることは、大工の研ぎに対するモチベーションを高く保たせる上でとても大事なことであり、日ごろの仕事の完成度を高く保つ上でもとても重要なことであると私は考えています。